ラフの線の中で動き出した動物たちに、少しずつ色が入り、 季節の空気が近づいていきました
前回は、ラフの話を書きました。
今回は、色を入れていく過程について書いてみたいと思います。
今回の絵本では、ターナーのアクリルガッシュ ジャパンカラーを使って描きました。
最初は、自分の細かい線の表現が出しやすい、ペンと水彩で描くことも考えていました。
けれど、以前描いた動物たちのポートレートシリーズ「ANIMALS」の印象を編集者さんが気に入ってくださっていたこともあり、今回も引き続きアクリル系の画材で描くことにしました。
アクリルガッシュで描く

色を重ねている途中の原画。
動物たちと食べものが、少しずつ画面の中に浮き上がります。
正直にいうと、私は「技法」というほどの技法を持っているわけではありません。
いつも、描きたいものに合わせて、紙や画材と相談しながら描いています。
アクリルガッシュは、乾くと色が定着して、上から重ねていける画材です。
水彩のようににじませたり、透明感を生かしたりするというよりは、色を置いて、重ねて、少しずつ形を作っていく感覚があります。
今回使ったジャパンカラーは、少しくすみのある落ち着いた色が特徴です。
最初は、そのくすみ具合をうまく自分の絵に使えるか、少し不安もありました。
でも描き進めていくうちに、その落ち着いた色合いが、日本の四季や食べものの空気を表すのに、とても合っているように感じるようになりました。
派手すぎない色。
けれど、よく見ると温度がある色。
その色の中に、動物たちや季節の食べものを置いていく作業は、この絵本の世界を作るうえで、とても大事な時間でした。
季節の食べものを描く

今回使ったターナーのアクリルガッシュ ジャパンカラー。
落ち着いた色合いが、日本の季節の空気に合っていました。
この絵本では、動物たちと日本の四季の食べものを描いています。
食べものは、ただの小物ではなく、場面の中心にあるものです。
誰かと囲むごはん。
季節の手仕事。
年中行事の中にある旬のもの。
心と体を養生するもの。
そうしたものを描きながら、食を囲むことで、心が少しごきげんになっていくような一冊にしたいと思っていました。
2022年から2023年にかけて、二十四節気七十二候の絵を描き続けていた時期がありました。

2022年に描いていた二十四節気七十二候の水彩画。
季節の食べものや草花への関心は、今回の絵本にもつながっています。
その頃から、季節の移ろいや、食べものと体の関係、暮らしの中にある小さな養生のようなものに、ずっと惹かれていました。
その頃に描いていた水彩のイラストも、今回、編集者さんが気に入ってくださり、絵本の扉絵として採用していただきました。
水彩で描いたもの。
アクリルガッシュで描いたもの。
画材は違っていても、自分の中ではどちらも、季節と食べものと動物たちがつながっている絵です。
動物たちの色と、食べものの色

食べものの色を重ねているところ。
料理や果物の色が入ると、場面の温度も少しずつ変わっていきます。
色を入れる時に考えていたのは、動物たち、季節、食べもののバランスです。
食べものをおいしそうに描きたい。
でも、食べものだけが目立ちすぎると、動物たちの表情やしぐさが見えにくくなります。
反対に、動物たちだけが強く見えすぎると、四季の食べものを囲む絵本としての空気が薄くなってしまいます。
どちらか一方を主役にするのではなく、同じ場面の中に一緒にいるように見せたい。
動物の毛の色。
器の色。
野菜や果物の色。
背景や余白の色。
そのひとつひとつを重ねながら、場面の温度を探していきました。
くすみのある色がくれたもの

絵本に登場する動物たち。
毛色や模様も、場面全体の色のバランスを見ながら描いていきました。
ジャパンカラーの落ち着いた色は、最初は少し難しく感じました。
明るく描こうとすると、色がにごって見えることがある。
逆に、落ち着かせすぎると、画面全体が沈んでしまう。
その間を探りながら描いていきました。
でも結果的には、その少しくすんだ色が、日本の四季の空気を出すのにとてもよかったと思っています。
春のやわらかさ。
夏の夜。
秋の実り。
冬の食卓のほくほく感。
はっきりした色だけではなく、少し控えめな色があることで、動物たちや食べものが、暮らしの中にいるように見えてきました。
原画と本の色
今回の絵本は、小さな形での出版です。
大きな部数を流通させる本ではなく、必要としてくださる方へ、一冊ずつ届けていくような出版として作りました。
そのため、印刷も大部数のオフセット印刷とは異なります。
原画の色と、印刷された本の色は、まったく同じではありません。
紙の上で見た時に、少し印象が変わるところもあります。
アクリルガッシュの原画には、絵の具を重ねた時の質感や、紙の上に残る細かな表情があります。
本になった時には、その原画とはまた違う、印刷物としての見え方になります。
最初は、ジャパンカラーのくすみが、印刷でさらに沈んで見えないだろうかという心配もありました。
けれど、限られた条件の中で、編集者さんと一緒に考えながら、一冊の絵本として形にしていくことができました。
原画には原画の色があり、
本には本の色があります。
6月28日の出版記念イベントでは、絵本とあわせて原画も展示する予定です。
印刷された本と、原画の見え方の違いも楽しんでいただけたら嬉しいです。
色が入って、動物たちの時間が近づいてくる
線の段階では、まだ少し遠くにいた動物たちが、色を重ねることで、こちらに近づいてくるように感じることがあります。
毛の色。
目のまわり。
手元。
食卓の上の器。
季節の食べもの。
小さな色の重なりが、その子たちのいる時間を作っていきます。
『ごきげん春夏秋冬』は、これまで描いてきた動物や、季節の食べものが一冊になった、私にとって大切な本です。
次回は、絵本の仕上げや、原画から本になっていく過程について書いてみたいと思います。
絵本『ごきげん春夏秋冬』は、2026年6月28日(日)に鎌倉で出版記念イベントを行います。
絵本の販売、ご予約分のお渡し、原画の展示などを予定しています。
はまぐり涼子
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