絵本『ごきげん春夏秋冬』ができるまで④   −原画が、本になるまで

12か月分の原画を描き終えてから、絵本が一冊の本になるまで。
表紙、帯、校正、印刷の色、そして6月28日の出版記念イベントへ向けてのことを書きました。


12か月分の原画を描き終えた時は、まず「やったー!」という気持ちでした。

長い長いラフの描き直しと、下書きの調整を経て、描き始めや途中に動画を撮る余裕もないほど集中して描いていました。
あと3枚、あと2枚、あと1枚。そんなふうに、少し祈るような気持ちで描いていたところもあります。

なので、12か月分の原画がそろった時には、開放感と、静かな達成感がありました。

けれど、そこで終わりではありませんでした。

本文の原画がそろっても、まだ表紙、ソデ、オビ、登場する動物たちのキャラクター絵などが残っていました。
「描き終わった」と思ったら、まだ山の向こうにもうひとつ山が見える。そんな感じでした。

描き終わったと思ったら、まだ次の山がありました。

それでも、12か月分の原画がそろった時には、やはり「描き切ったな」と思いました。
近くで見せる場面、遠くから全体を見せる場面、動物たちが集まる場面、食べものが目に入る場面。
ひとつずつ描いている時は必死でしたが、12か月がそろうと、季節の移り変わりと食卓の流れが見えてきました。

23日、刷り上がった絵本が届きました。原画から、ようやく一冊の本へ。

一枚の絵から、ページの流れへ

一枚の原画として見る時と、絵本のページとして見る時では、見え方が少し違います。

原画を描いている時は、その一枚の中で、動物たち、食べもの、季節の気配をどう見せるかに集中しています。
けれど本になると、前のページから次のページへ、時間が流れていきます。

この絵本は、一匹の動物を主人公にした物語ではありません。
動物たちが、季節ごとの食卓や行事の中にいて、その一年をめぐっていく絵本です。

だからこそ、どの月から始めるかは、途中で何度か考え直しました。
制作の進行に合わせて、何月から始まる構成にするかを検討した時期もあります。

けれど最終的には、1月から始めることにしました。

新しい一年のはじまり。
食卓を囲む動物たち。
新年から春、夏、秋、冬へとめぐっていく流れが、日本の季節の感覚に合っているように思えたからです。

テーマや構成、ラフの準備にはかなり時間がかかりました。
描き始める前は大変でしたが、出来上がってみると、あの時にしっかり練っておいてよかったと思います。

描きたいものを、全部は入れない

絵本にする過程では、描きたいものを全部入れられるわけではありません。

たとえば1月の場面。
最初は、身近にいるタラオ、ロミ、ロナ、そしてお空組のロハも、同じ絵の中に残したい気持ちがありました。

でも、登場する動物が多すぎると、最初の場面から視線が散ってしまいます。
誰を中心に見せるか。
その場面で何を伝えるか。

構成や画面のバランスを考えた結果、1月の場面では登場する動物を絞ることにしました。

少し残念な気持ちもありましたが、本の中で見るとその判断はよかったと思っています。

絵本づくりでは、描くことだけではなく、残すこと、減らすことも大事なのだと感じました。

1月の場面は、登場する動物の数や視線の流れを考えながら、少しずつ構成を調整していきました

編集者さんと、何度も話し合ったこと

今回の絵本は、編集の今屋さんと一緒に作りました。

最初のきっかけは、いつか一緒に絵本をつくろうという言葉を元に、何年も続けてきた会話でした。
私たちは、その時間を「脱線会議」と呼んでいました。

動物のこと。
食べもののこと。
季節のこと。
絵本のこと。
話はあちこちへ飛びながらも、少しずつ、この本の土台になっていきました。

制作中は、私も自分の考えを出しましたし、今屋さんも曲げないところは曲げない。
その間で、どこがいちばんいい形なのかを探っていく時間がありました。

一人だったら、ここまで文章のある本にはできなかったと思います。
自分の絵が、第三者にはどう見えるのか。
どこに余白があり、どこに言葉が必要なのか。
そうした視点が入ったことで、絵だけでは届かなかった部分が、本の形に近づいていきました。

けんけんがくがく話しながら、一緒に考えていく。
その過程も含めて、この絵本は私にとって大切な一冊になりました。

表紙と帯に、もう一度動物たちが集まる

本文の原画のあとには、表紙、帯、袖の制作がありました。

表紙と帯の仕組みを思いついた時は、とてもわくわくしました。
でも、実際に描いていく作業はなかなか大変でした。

少しずつ空のお皿が埋まっていく。
食卓に動物たちが集まってくる。
表紙の中にも、絵本の世界が立ち上がっていくようで、その過程は面白い時間でもありました。

表紙と帯も、少しずつ料理や動物たちを描き足しながら形にしていきました。

帯や袖には、本文とは別に、カワウソ、カエル、ハムスター、ハツカネズミ、ハリネズミなどの小動物たちが登場します。
当初はここまで何度も描く予定ではなかった子たちも、最終的にはこの絵本の大切な共演者になりました。

表紙の構成についても、今屋さんと何度も話しました。
視線が散らないこと。
食卓がきちんと見えること。
そして、自分がいちばん描きたい動物をきちんと生かすこと。

相談しながら、最終的な形に近づけていきました。

校正で見えてきた、小さな大事なこと

絵が入り、文字が入り、本の形に近づいていくと、今度は校正の作業が始まります。

文章の確認。
表記の確認。
画像の確認。
動物たちの切り抜き画像。
色の出方。
奥付やQRコード。

読んでくださる方には見えないところですが、細かく確認することがたくさんありました。

何度も見ているのに、見落としがある。
気づいたと思ったら、また別のところが気になる。
校正は、思っていた以上に緊張する作業でした。

小さな見落としに気づくたび、心臓がきゅっとなりました。

たとえば、動物の目の光が抜けていることに後から気づいて、慌てて直したところもあります。
小さな白い点ひとつでも、入ると表情が変わります。
あきらめずに確認してよかったと思っています。

表記についても、どこまで統一するか悩みました。
動物たちの名前をすべて整えすぎると、一覧表のようになってしまう気がしました。
一方で、ばらばらすぎると読みづらくなります。

整えるところは整えつつ、この絵本らしい少しのゆらぎは残す。
そんな判断も、校正の中でしていきました。

絵本づくりは、描いて終わりではありません。
ページになり、言葉が入り、何度も確認して、ようやく本に近づいていくのだと実感しました。

原画の色、本になった時の色

原画と、オンデマンドで印刷された本の色は、同じではありません。

原画の色と、本になった時の色。その違いにも向き合いました。

これは大前提としてありました。
特に今回の絵は、アクリルガッシュを重ねて描いています。
一本一本の毛のタッチや、紙の上に残る絵の具の質感は、原画だからこそ見える部分があります。

今回の絵本は、大部数を流通させる本ではなく、必要としてくださる方へ一冊ずつ届けていく、小さな出版として作りました。
そのため、印刷も大部数のオフセット印刷とは違います。

もちろん、不安もありました。
私の絵の細かなタッチを印刷でどこまで出せるのか。
ジャパンカラーの落ち着いた色が、印刷で沈みすぎないか。

けれど、限られた条件の中で、編集者さんと一緒に考えながら、本として形にすることができました。

原画には原画の良さがあります。
本には本の良さがあります。

原画では、細かな筆の跡や毛並み、色の重なりを見ていただけます。
絵本では、12か月の場面がつながり、一冊の物語のように、歳時記のように楽しんでいただけます。

印刷された本になることで、遠くにいる方にも届けられる。
それも、本という形の大きな力だと思っています。

【画像④:原画のアップ、または本と原画の雰囲気が伝わる写真】
原画には原画の色があり、本には本の色があります。それぞれの見え方を楽しんでいただけたら嬉しいです。

食卓を囲むことへの願い

この絵本には、動物たちと、日本の四季の食べものが登場します。

誰かと食卓を囲むこと。
季節のものを味わうこと。
手を動かして、暮らしの中にあるものを大切にすること。

戦争が終わらない今の時代に、テーブルを囲んで、胃袋を満たしながら心も満たしていく時間を、もっと持てたらいい。
そんな願いも、この絵本の中にはあります。

大きな声で何かを言う本ではありません。
でも、食べものを前にした時の嬉しさや、わくわくする気持ち。
動物たちの姿に託した、誰かを思いやる気持ち。

そういうものを、ページの中で受け取ってもらえたら嬉しいです。

6月28日、鎌倉でお披露目します

絵本『ごきげん春夏秋冬』は、2026年6月28日(日)に鎌倉で出版記念イベントを行います。

この絵本をいちばん早く手に取っていただけるのは、当日のイベント会場です。

会場では、絵本の販売、ご予約分のお渡し、原画の展示などを予定しています。
原画をゆっくり見て、絵本も手に取って楽しんでいただけたら嬉しいです。

タラオと私も会場におりますので、気になることがあれば、ぜひお声がけください。
今の所直接お話しできる機会はこの日のみですので、お久しぶりの方にも初めましての方にもお会いできることを楽しみにしています。

会場は、鎌倉・大町のCORNER SHOPです。
小さな場所ですが、絵本と原画をゆっくり見ていただけるように準備しています。

鎌倉市大町の小さなギャラリースペース、CORNER SHOPでお待ちしています。

また、絵本ナビにも掲載が始まりました。
現在は販売準備中ですが、少しずつ外の世界にもこの本が出ていくのだなと感じています。

なお、当日の会場、またははまぐり涼子の公式サイトからご予約・ご購入くださった方には、ささやかな「ごきげん札」のプレゼントもご用意しています。

▶ 6/28出版記念イベントのお知らせ

次は、届ける準備へ

これで、「絵本ができるまで」の制作裏側は、ひとまず一区切りです。

ラフを描き、色を重ね、原画が本の形になっていく。
その過程を少しずつ書いてきました。

この後は、絵本をどう届けていくか。
そして、出版記念イベントでご案内するスケッチ企画についても、改めてお知らせしていく予定です。

絵本『ごきげん春夏秋冬』が、必要としてくださる方のもとへ届いていきますように。

はまぐり涼子

イベントの詳細や当日のご案内は、LINEでもお届けしています。
よろしければ、こちらからご登録ください。

→ LINE公式アカウント