ギャンブラーの話かと思ったら、その先には深い深い悔恨と償いと再生の物語が広がっていました。
タクシードライバーの脚本を手掛けたポール・シュレイダーが今回は監督と脚本、
そしてマーティン・スコセッシが製作総指揮という豪華な作品です。
ストーリーについて
米軍刑務所で8年の刑期を終えた男ウィリアム・テルは、その服役中に得たカードスキルを基にギャンブラーとして身を立てて暮らしています。カジノからカジノへ動き、モーテルではこれから殺しでもするんですかというくらいに全ての家具に白い布をかけて包み、ノートに何科を書き込んでいる様子は、あまりにエキセントリックで不穏な空気にドキドキします。
目立たず小さく賭けて小さく勝つ。徹底したそのスタイルで空気のようにギャンブラーたちの間を通り抜けていきますが、それをじっと見つめていた女性ブローカーは一緒に組んで大きく儲けないかと誘います。それを断ったウィリアムは、ある時カジノ施設のそばで開催されていた会議でしゃべる男を見かけます。それは、忘れもしない自分が刑務所に入るゆえんとなる所業に影響を与えた男でした。
そしてその後、若い男に声を掛けられます。「ヤツを覚えてるか?」
その彼はかつて軍隊で仲間だった男の息子である復讐を企んでいるのでした。
金を稼ぎ自分の犯した罪を背負い続けながら生きることを決めていた男の懐に飛び込んでくる息子のような若者と、魅力的な女性ブローカー。自分ひとりで全てを背負うつもりでいたウィリアムの気持ちが静かに揺さぶられ、これまで避けてきた決着のつけ方を選んで再びその責任を負うと決めた場面はなかなか印象的でした。
最も暴力的な場面になりうる場面で一切の血しぶきは目の前で飛び散らない。これがまた新鮮でした。(スコセッシが監督だったら血みどろになりそう)
モーテルで全てを布で覆い尽くす場面と、決着の場面。これが一番記憶に残っています。
オスカー・アイザックと共演者たち
この映画を選んだ理由としては、まず
オスカー・アイザックが主演であったこと。
字幕が知り合いの方であったこと、
そして、シュレイダー&スコセッシ作品であったこと。
グアテマラ出身の濃いめ俳優オスカーがめちゃくちゃ渋く際立つ映画になっていました。結構前からオスカー大好きなんですが、たぶんちゃんと意識したのはコーエン兄弟監督『インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌』です。何?ってくらい成功もハッピーエンドもない映画ですが、オスカーよかった。歌もよかった。ちょうど10年前2013年の映画だったんですね。
『アメリカン・ドリーマー 理想の代償』もいいのですが、ぞわっとしたのが『エクス・マキナ』で演じた怖いCEO。この方、悪に近いポジションで演じると強烈に記憶に残ります。
そのあとはもうスターウォーズとかDUNEとかでかっこいいおじさんになっちゃったので、うれしい気持ちもありつつ、脇で主役を食う人であってほしいわがままな気持ちが消えませんでした。
この映画に戻りますが、最近のオスカーにしてみると派手さはないと思います。が、狂気はある。この人には狂気じみた不穏な空気が似合うのではないかと思います。今回のような地味だけど、ハードボイルドなストーリーと孤独と、ほのか再生への希望みたいなセッティング、とても良かったです。個人的に。
若者を演じたのは、タイ・シェリダン。『レディ・プレイヤー1』の主役とか割と大役もらってますけど、日本ではいまいち記憶に残りにくい俳優です。
私は2021年のAmazonオリジナルで『僕を育ててくれたテンダー・バー』を観た時に初めていい青年演じてるな~と認識しました。
この映画も地味ですが、作家J.R.モーリンガー原作で、監督はジョージ・クルーニー、タイの伯父役のベン・アフレックがこれまたいいおじさん演じててゴールデングローブ助演男優賞ノミネートもされていました。Amazonオリジナルたま~にいいのが出ます。私は好きだったな~、全体的な評価はいまいちだったようですが。
今回も怒りを抱えつつ投げやりな感じのある若者っぷりはよかったですが、オスカーが凄かったのでね。。。
そして敵役となる男は、天下のウィレム・デフォー。もうなんかミイラみたいなおじいちゃんになってますが、迫力はある。この人も悪の存在として出てくるとたまりません。大事ですね、こういう俳優さん。笑
今回女性のギャンブル・ブローカーがハードボイルドな男の心をすこし揺さぶるわけですが、演じるのはティファニー・ハディッシュ。コメディアンなのだそうですが、私は知りませんでした。なので、なんともゴージャスな姉さん、オスカーの素敵な相手役ネと思って観ておりました。ハードボイルドで無骨な物語の中で、唯一華やかさと色気を振りまいてくれました。彼女の存在も、ギャンブラーウィリアムの心に変化をもたらしていくので重要です。
制限の中で伝える字幕のすごさ
さて、最後に字幕について。
映画翻訳ってほんと大変なお仕事だと思うので、日本語に出してくれてありがとうございますなんですけれど、ま~今回はしょっぱなから難しかったですね。
ギャンブルですから。ポーカーにブラックジャックですから。
専門知識ゼロの観客がどう理解できるように限られた表現で伝えるのか。
私は結局一度で飲み込めなかった内容も結構あったのですが、
今回覚えておくべきは、カード・カウンティングでしたね。
カードの数字を数えるってことはカジノではやっちゃいけない事らしいのですが、ウィリアムはそれを悟られずにやってしまうスキルがあるらしい。そしてそのスキルは勝ち負けに大きく関与する。。くらいしか残っておりません。でもそれが肝っちゃ肝なのでその情報が残っている状態が大事かなと思います。
日本で賭け事のポーカーやブラックジャックはあんまりいいイメージはないですが、そうはいってもこれ頭脳戦で、自頭、機転、計算とまあ知的要素がてんこ盛りの戦いです。こういう一般的には身近でないものを舞台にする場合、字幕にもさりげない仕込みがありそうです。
翻訳というものは、場所が変われば訳出の仕方も様々に変わります。2時間近い映画のセリフの訳出なんてもう脱帽ものです。岩辺さん、大変お疲れ様でした!そしていい映画を送り出してくれてありがとうございます~。(勝手に感謝)
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