2023年6月『EO(イーオー)』映画感想イラスト

ポーランドの監督、イエジー・スコリモフスキによるロバの物語です。
動物大好きなわたくし、ロバの愛らしい目が大好きでして、
映画が公開されると知った時これは映画館で観なければと思いました。

スコリモフスキ監督が唯一涙を流したというロベール・ブレッソン監督作品
『バルタザールどこへ行く』へのオマージュと言われています。
2020年に新宿で上映した機会があったようなのですが
残念ながら2023年現在はネットで視聴することはできません。

イーオーと言えば、クマのプーさんのイーヨーが思い浮かびます。
その名の通り、ロバの鳴き声を形容した言葉なのだそう。
ロバの鳴き声はかなりけたたましいですよね。かわいいんだけど。

女サーカス芸人と相思相愛の関係だったイーオーが
動物虐待反対運動の嵐に巻き込まれ、放出され、
馬場での使役、保護牧場からの脱出、野山の放浪、
そして心無い人間達による虐待など、
イーオーに様々な出来事が降りかかります。

言葉は少なく、けれどイーオーの苛立ちや怖さは
そういった出来事から透けて見えてきます。

瀕死のところを助けられ、また人の手を離れて
たどり着いた毛皮農場の現状もなかなか衝撃的でした。
私が可愛い可愛いと夢中になって調べているキツネたちが
毛皮を採られるためだけに飼育されている、今でも海外に存在する農場です。
そこでキツネの檻を乗せた荷台を引くはめになったイーオーが
後ろ足を蹴り上げた時、思いがけない事態が起こり
彼は再び自由になりました。

このままイーオーはどこへ行くのだろうと思っているうちに
たどり着くのは、牛たちの集まる場所。
その群れの波にのまれていくイーオーの場面が印象的でした。

赤いライトの下で動くサーカス芸人とイーオー。
野を走る馬たちを運搬車の柵から見つめるイーオー。
再会したサーカス芸人が気まぐれに去っていき鳴くイーオー。
そして、イーオーの近くで起こる人間たちの物語。

私は細かい要素の示唆するところを全て拾い上げることは
出来ませんが、最後に残る感覚として、
スコリモフスキ監督のロバへの愛着というものが
映画全体を包み込んでいるように思いました。

痛烈な人間批判だけというわけでもなく、
徹底的な動物愛護を叫ぶわけでもなく、
酷い人間もいい人間もいるこの世で
ただ生きようとするロバの物語。

これは偏見かもしれないけれど、東ヨーロッパの国に生きる人が作る物語は
可笑しみも悲しみも包含した不思議なトーンを持っているような気がします。

私の何のひねりもない表現で埋めた感想に限界を感じて、
パンフレットに掲載された遠山純生さんの映画評論を読んだところ
もちろんスコリモフスキ監督の経歴、作品群を含めた深い知識をもとに
私の言語化できなかったことが整然としかし決してこねくりまさず
非常にわかりやすく書かれていました。

いやー自分の考えをまとめる前に読まなくてよかった。。。
あまりに的確なのでこういういい評論読むと引っ張られてしまうんですよね。
私は感想なのでがっつり書くスタンスではないのですけれど、
やっぱり映画を観て自分で言葉をまとめてから読むと
深い!と思うのが評論です。
ですので、最近高めの映画パンフレットでもやっぱりいいお買い物でした。

この映画は将来ネットで配信する可能性はあるのでしょうか。
また観る機会があったら観たい映画の一つです。